2006年8月14日 組み合わせ
この夏は、夏休みもお盆休みもなく、ずっと働いている。でも、とても楽しい。忙しい理由は、昨年から開発を進めていた「ふらの石鹸(せっけん)」がやっと出来上がったからだ。富良野産の野菜や果実から抽出したエキスを配合した石鹸で、ブドウとニンジン、カボチャの三種類がある。今は「ふらの石鹸」の販売やPRに追われ、休んでいる暇がない。
私の会社はこれまでも富良野にこだわった“富良野発”の商品を作ってきた。今回の石鹸が今までとちょっと違うのは、北海道電力グループの研究所と共同で開発したことだ。うちのような地方の小さな会社と一緒に新製品の開発に取り組んでくれるなんて、相手方にとっては思い切った試みだろうなと思う。
私は北海道を活性化するためのこれからのキーワードは「組み合わせ」だと考えている。それは人と人だったり、会社と会社だったり、時には人と会社だったりするけれど、要は「さまざまな結びつきの可能性を探りながら、北海道の人間がみんなで力を合わせて頑張ろうよ」ということだ。
今後、北海道や富良野を取り巻く状況はまだまだ厳しくなると思う。でも、私は悲観してはいない。今回の石鹸のような新たなプロジェクトをみんなでいっぱい企画し、知恵を出し合えば良い。私のように五十歳を過ぎた人間がこんなことを言うのは気恥ずかしいが、これからも大きな夢を持っていろいろなことに挑戦したいと思っている。
2006年10月2日 書のTシャツ
夏休みで富良野に帰郷していた大学生の息子と一緒に東京へ出かけた。羽田空港で荷物を待っている時、息子が「お父さん、うちのTシャツを着ているよ」と同じ便で来た人を自慢そうに指さした。その人は、今年の夏から販売している「書(しょ)Tシャツ」を着ていた。息子は富良野市麓郷の私のショップでアルバイトをした時に制服代わりにそのTシャツを着ていたので、余計にうれしかったのだろう。
「書Tシャツ」は筆で書いた「森」「月」「風」「空」「星」の文字を一文字ずつ背中に大きくデザインしたオリジナル製品。五つの文字は富良野の自然をイメージして選んだ。紺地や黒地に白抜きなどの文字を入れ、一枚二千三百十円で販売したところ、好評で売れ行きが伸びている。
文字を書いてくれたのは、私の叔父でもある富良野出身の書家の村田鳴雪(めいせつ)=札幌在住=。富良野の風景写真と書を組み合わせた作品集「富良野で山頭火」を作った時にも山頭火の句を書いてもらった。若い人も年配の人もTシャツを気に入ってくれるよと伝えると、「森や風、月、星といった文字が良かったのだろう。人に愛される文字を書けたというのは、書を勉強してきた者としてうれしいし、ありがたい」といつもながらの謙虚な言葉が返ってきた。
叔父は五十年以上も書を書き続けてきた。その叔父が、幼いころから好きだったという文字を心をこめて書いてくれたからこそ、書Tシャツが成功したのだろう。これから、さらに「花」「雪」「雷」「山」「川」などの文字を増やすつもりでいる。叔父の書が、Tシャツを通して全国に広まっていくことを想像すると、とても楽しい。
2006年11月16日 就活スーツ
東京にいる大学三年生の娘と久しぶりに会ったら、「就活(就職活動)に必要なのでリクルートスーツを買ってほしい」と言われた。
リクルートスーツと通称されるのは、就職活動をする学生が会社訪問や就職試験の時に着る黒やグレーの画一的なスーツのこと。実は、三年前に入学式で着るスーツを選んだ際に娘に「就活にも使えるからリクルートスーツでいいよ」と言われたのだが、私はそれに同意せず、明るめのスーツに決めたのだった。
私にしてみれば、校則などにしばられている高校生とは違って、大学生はもう大人なんだから、みんなも色とりどりの服を着てくるだろう、ジーンズの人だっているはずだと、そう思い込んでいた。しかし、入学式に出席してみて、あぜんとした。ほとんどの学生は、地味なスーツだった。何人かは少し派手な色だったが、明らかに少数派だった。私は、割り切れない気持ちになった。
私たちの大学生時代から三十年以上も過ぎて、この間、やれ国際化だ、やれグローバルスタンダードだなどと宣伝され、ことあるごとに個性だ、自立だ、自由だと、それが当たり前のようにはやし立ててきたのに、これは一体何なのか。地味なスーツの学生たちの集団は時代に逆行しているように思え、私には納得がいかなかった。
就職活動にしたって、なぜ地味なスーツでなければダメなのか。面接官だって、ある程度は個性的な服装の方が人物評価をしやすいだろう。それに、どうせ買うのなら、就職後にも着られる服がいいに決まっているじゃないか。などと言ってはみたものの、「みんなが着るならしょうがないか」と日本人的な横並び思考を捨て切れず、結局、没個性的な黒い就活スーツを買ってしまった。