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アルトサックスのソニー・クリスが聞きたくなって、レコードを探した。ソニー・クリスの中ではあまり聞かない「アップ・アップ・アンド・アウェイ」を取り出した。 アップ・アップ・アンド・ウェイは、もしかしたらソニー・クリスのアルバムでは、一番有名かもしれない。でも、私はあまり聞かない。 その訳は、タイトル曲のアップ・アップ・アンド・ウェイにある。この曲は、アメリカのコーラス・グループ「フィフス・ディメンション」の1967年のヒット曲だ。この曲に限らずヒット曲はその時代に何回も何回も聞いてしまうので、飽きるというか、色あせるというか、「あ〜、あの曲ね」になってしまう。 例えば中島みゆきの好きな曲をあげるとなると、いわゆるヒット曲は入らない可能性が高い。(もちろん、ヒットした曲も好きだが・・・) アップ・アップ・アンド・ウェイを久しぶりに聞きながら、なにげなくライナー・ノーツをLPレコードのジャケットの中から抜き出した。驚いた。村上春樹が書いているのだ。全然知らなかった。雰囲気として、村上春樹が書いたのは1980年代の前半だと思う。 このレコードが録音されたのは1967年。ということは、フィフス・ディメンションがヒットさせたその年にすぐ録音されたことになる。その時は、私はまだジャズのジの字もない。グループサウンズにうつつをぬかす中学生だ。それでも、アップ・アップ・アンド・ウェイはリアルタイムで聞いていたと思う。それほど日本でもヒットしたのだ。 ライナー・ノーツを読み進むうちに、ちょっとうれしくなった。特に次の文は「なるほど、意識していなかったけど、そういうことよねぇ〜」と納得した。 『決して一流の才能をもってその演奏生活を始めたわけではないのだけれど、遂には一流の域に達した人であった。'75年録音のミューズ盤「クリスクラフト」とこの「アップ・アップ・アンド・ウェイ」の両レコードに収められた「ジス・イズ・フォー・ベニー」を聴き比べてみてほしい。僕の気持はわかって頂けるはずだ。』 ソニー・クリスのアルバムの中で一番好きなのはワイワイ日記でも紹介した「クリスクラフト」だ。 村上春樹が書いていることを私に当てはめると、ソニー・クリスと最初に出会ったレコードがクリスクラフトだったのが、幸いしたということだ。クリスクラフトは好き嫌いを超越した“一流の域に達した”演奏のアルバムだったのだ。 もし最初の出会いがアップ・アップ・アンド・ウェイだったら、こんなにソニー・クリスに入れ込まなかったかもしれない。最初の印象がもの凄くよかったから、その後に聞いたアルバムも好意的に聞けたのかもしれない。 最初に新鮮で活きの良いウニを食べたからウニを好きになったので、もし最初に活きの落ちたちょっと臭いのあるウニを食べていたら、嫌いになっていたかもしれない。本当のおいしいウニの味を知っているから、多少臭いウニでも、ウニとして許せる、そんな感じか。ん? それにしても、村上春樹がライナー・ノーツを書いてくれて、感謝だ。 あっ、忘れるところだった。 クリスクラフトが特にイイ!と言いたいだけで、アップ・アップ・アンド・ウェイのソニー・クリスだって悪くないよ。ホント! |
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