★ピロリ★

「こんな名前の細菌が、私の胃の中にいると思うと何だか情けなーい!」
「とても可愛らしい名前なので・・・」
ともに「ピロリ」という言葉に対する感想である。前者は胃潰瘍を繰り返している看護婦さん、後者はアルバムタイトルに「ピロリ」を選んだ、ロックバンド「爆風スランプ」のサンプラザ中野氏のコメントである。


この「ピロリ」、最近新聞等でお目にかかる頻度も多いと思うが、「ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)」が正式名称である。
ヘリコ(らせん型)、バクター(細菌)、ピロリ(幽門部)と考えて、胃の出口付近の幽門部に好んで住み着くらせん型の菌と理解することができる。


通常胃の中では、胃酸による強酸の環境のため細菌は生息できず、胃自体も酸から身を守るため、粘膜の表面を粘液で覆いバリアーを形成している。
このヘリコバクター・ピロリは、胃内にはいると自身の鞭毛を動かして胃酸の影響を受けない粘液下に潜り込もうとする。さらにこの細菌がもつウレアーゼ活性という酵素作用が、周囲の尿素を分解しアンモニアと二酸化炭素を作り出し、酸を中和することにより、自分自身を守りながら粘液層に住み着いてしまう。
この結果胃粘膜のバリアーを破壊し、色々な不都合が生じてしまうと推定されている。
どんな不都合かというと、一つは先の看護婦さんが嘆いていたとおり、潰瘍の発生に関わっていることである。この細菌の感染によって胃・十二指腸潰瘍が発症するといった確固たるデータは今のところないが、抗生物質などでこの細菌を排除(除菌治療)すると、潰瘍の再発率が激減することにより、その関連性を間接的に裏付けているのである。
どのようにして発症するかは未だ不明であるが、この細菌が出すトキシン(毒素)や先のウレアーゼ活性で生じたアンモニアによる直接粘膜障害とバリアー破壊などが関与しているようである。


そんなことで、最近では内視鏡で胃潰瘍と診断された際は、同時に胃粘膜を採取し、この菌の存在の有無を確認するようになってきている。
もし細菌が確認された場合は、抗生物質による除菌治療も考慮されるのである。
胃潰瘍に抗生物質?いかにも組み合わせが悪そうで、二の足を踏みそうであるが、潰瘍治療の一大転機なのである。
もう一つ注目を浴びているのが、胃癌との関係である。依然統計学的な域は脱していないが、全世界的に「発癌因子」の一つとして基礎的検討が開始されている。
今後の、除菌による胃癌の予防といった面でも期待できるかも知れない。


爆風スランプのアルバム「ピロリ」の中には、その名の通り「ヘリコバクター・ピロリ」という曲が入っている。ラブソング?に囲まれてこの曲があると、一種異様であるが、この菌の特徴をわかりやすくしかも正確に歌詞にしているあたりは、長々と言葉を並べているこのような文より、遥かに素晴らしい・・・とただ脱帽する限りである。
我々の仲間内では、この「ピロリ」のことを「ヘリコ」と呼ぶことが多いが、そのことを知っていたら、アルバムタイトルも「ヘリコ」となったのであろうか?・・・これも余計なことである。



→ヘリコバクター・ピロリQ&A

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