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★死の四重奏★


 ショスタコーヴィチ晩年の弦楽四重奏曲(第11番から15番までの5曲)は、作曲者自身の悲しみが表に出て、「死」をも連想させると言われている。特に、第13番はヴィオラが主体に奏でられるためか、その音色により悲しみが助長され、感動的なハーモニーを展開している。勿論音楽にそれ程詳しい訳ではないので、「死の四重奏」をテーマにクラシック音楽の話を続けるつもりはない。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが弦楽四重奏を奏でるとき、それがたとえ「死」をテーマにしている場合であっても、聴く人にはそれなりの感動を与える。しかし、これが「病気の話」となるとちょいと違ってくるのである。

 1989年Kaplanは、動脈硬化性疾患、特に虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の発症に(1)上半身肥満、(2)耐糖能異常(糖尿病)、(3)高中性脂肪血症(高脂血症)、(4)高血圧を併せ持つ病態が大きく関与するとして、「死の四重奏」(Deadly Quartet)という言葉を提唱している。言い換えると、例えば血圧が高い人に、高脂血症、糖尿病、上半身肥満が加わると、虚血性心疾患を起こしやすくなるということである。すなわち、これら4つの因子(危険因子)が絡み合うと、本当の「死」に直結する四重奏を奏でることになる。

 ここで、4つの危険因子の中で聞き慣れないと思われる「上半身肥満」について説明を加えてみよう。従来の標準体重から計算した肥満度を用いた「肥満」の定義では、外見上の「太っている」といった体型の表現にすぎず、同じ体重・同じ身長では、筋肉質の人も中年太りの人も同じ肥満度になってしまい、生活習慣病などの発症率を考慮指標としては問題が生じてくる。このため最近では、体格指数(BMI)から肥満を定義し、この指数から生活習慣病との因果関係を考慮するようになってきている。このBMI(body mass index)は、体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値で、統計学的に22前後が病気になりにくく死亡率が低いため、20〜24を正常範囲、24以上を肥満傾向、26以上を肥満としたものである。さらにこの肥満を、上半身肥満と下半身肥満に分けると、病気を合併しやすい病態がより明確となる。

 肥満を上半身型と下半身型に分ける場合の簡単な測定方法を一つ。先ず巻き尺(できれば非伸縮性の布製メジャー)を用意する。お腹周りで一番太いと思われるところ(ウェスト)、次にお尻ので最も突出している部位(ヒップ)の周囲径をともに0.1cm単位で測定する。前者(Waist)を後者(Hip)で割った数値が、ウェスト/ヒップ比(W/H比)で、このW/H比が大きい場合を上半身(リンゴ型)肥満といい、お腹の周囲に肥満が目立つ体型(いわゆる中年太りもこの範疇に入る)で、生活習慣病のリスクが高くなるのである。逆に若い女性に多い下半身肥満は、尻や太ももに脂肪が付くタイプ(洋ナシ型)で、妊娠・出産などに必要不可欠な体型といっても過言ではない。

 さらに話が面倒になるが、上半身肥満にも腹腔内に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満と腹壁の皮下に脂肪が蓄積する皮下脂肪型肥満の肥満の2つが存在する。上半身肥満のうち内臓脂肪型肥満の方が危険で、W/H比で言うと、男性の場合0.95以上、女性では0.8以上が内臓脂肪型肥満の目安になり、生活習慣病発症リスクの増加の面から特に注意を要する状態である。因みにお相撲さんは、上半身肥満でも腹部CTスキャンなどで検査すると、お腹の中には脂肪が少なく皮下脂肪が多い皮下脂肪型肥満のケースが大部分で比較的リスクが少ないと言われている(これは摂取カロリー相応の運動量があるためかと考えられている)。上半身肥満とともに四重奏を奏でる因子を他に持つ人には、以上のようなことを念頭に置き今後対処されることを期待したい。

 ベートーベン弦楽四重奏曲第15番イ短調の第3楽章には、作者自身の頭註で「病癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」と記されている。第2楽章まで作曲した後、病に倒れ、回復後第3楽章の作曲を再開したとのこと。第3楽章の静かな立ち上がり、徐々に明かりが見えていくような展開、病癒える喜びの表現だろうか?と思うのだが、勿論素人の考えることなので全く当てにはならない。「死の四重奏」を奏でている人も、「病癒えたる感謝の歌」を奏でる時が来る日を期待して・・・

*Kaplan NM : The Deadly Quartet:upper body obesity,glucose intolerance,hypertriglyceridemia, and hypertension.
Arc.Intern Med 149 : 1514-1520,1989
(1998/4/1)






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