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タイプA行動パターンとは、闘争心が強く、攻撃的で敵意を持ちやすく、さらに出世欲が旺盛で、目標達成欲求も強いなどの行動を示す場合を指し、非常にストレスを受けやすい生活しているため、心筋梗塞発症の危険性が高いとされている。 「A型の女」の続きの話を書くつもりではないが、このタイプを示す女性に限って歴史を繙くと、早い段階で思い当たるのが、古代エジプト最後の女王クレオパトラである。 クレオパトラは、プトレマイオス12世の死後、弟の13世とともに共同統治することになった18歳の時点で、既に複数の外国語を操り、科学、修辞学も学び、政治的手腕を発揮できるほどの資質と十分な教育があった。復権のためカエサルの愛人になったり、カエサルの死後その後継者たるアントニウスを操り、自分の地位を確固としたものにしようとした行動など、常に短時間で多くのことを成し遂げようと精力的に活動し、非常に目標達成欲求も強かったものと判断される。 ここでは、タイプA行動パターンを示していたからといって、クレオパトラの死因が心筋梗塞だったという話を書く訳ではない(勿論、毒蛇説の否定論もあるが)。 「クレオパトラがバセドウ病であった」という説は有名である。
バセドウ病とは、喉仏の下にある甲状腺のホルモンが過剰につくられ、種々の病態を示す疾患である。女性に多く、臨床的に(1)甲状腺が大きくなること(びまん性甲状腺腫)、(2)眼球突出に代表される眼症状、(3)動悸(頻脈)、疲れ易さ、体重減少、手指のふるえ、発汗過多、いらいら、月経異常などの甲状腺機能亢進症状を呈するのが特徴である。甲状腺ホルモンは、身体の新陳代謝を管理し、「精神的にも肉体的にも、体を活発にするホルモン」のため、過剰になると自律神経が緊張し、一見自律神経失調症と間違われるような症状が出現するのである。 何故?クレオパトラがバセドウ病と言われているか。 (1)クレオパトラの描かれたコインやレリーフに甲状腺腫が認められる、(2)目が大きく輝いていた、(3)性格がせっかちで、行動が活発などが理由として挙げられている。本当にそうなのだろうか? 確かに自律神経(交感神経)は常に緊張状態にあったかもしれないが、これはタイプA行動パターンで説明できる。甲状腺腫の存在に関しても、疑問が残る。現在のところ、クレオパトラの肖像を残すものは、クレオパトラが鋳造させた(表にアントニウス裏にクレオパトラを刻印した)貨幣が唯一である。このコインにしても、明らかな甲状腺腫は指摘し得ない。ここ数年、フランク・ゴッディオ率いるヨーロッパ海洋考古学研究所チームが、アレクサンドリア沖でクレオパトラの宮殿跡や古代都市遺跡を発見しているが、クレオパトラの彫像は未発見である*。また、後世が残した絵画や彫像でも甲状腺腫を指摘しうるものは存在しないのではないか。もうひとつ、発症時期にもよるが、治療法が全くない時期に、カエサルとの子1人とアントウニウスの間に3人(うち2人は双子)の子供を妊娠出産できただろうか。今後も結論はでないだろう。 「バセドウ病の女性には美人が多い」というのも定説である。 目は大きく輝いており、やせ型で、活発なところもあり、魅力に富んでいるからと推定される。この意見には、何となく賛成できるところがある。カエサルを虜にさせ、アントニウスを悲劇の恋に導いたクレオパトラは、この点では代表的な人物となりうる。かの楊貴妃もバセドウ病だったという説もあるが、これを説明できる資料は持ち合わせていない。また、クレオパトラ役の女優の中で最も有名なエリザベス・ティラーも、この病気であるといわれているが、これも自信はない。 ヴィクトリア朝時代のイギリスの画家ロセッティが妻をモデルとして描いた「ベアータ・ベアトリクス」は、前頸部に甲状腺の腫れを示唆する明らかなもりあがりが見られる。この「ロセッティの頸」は、ロセッティの他の作品にも美の象徴?として取り入れられている。ロセッティはミレイやハントらとともに、ラファエル以前15世紀初頭の美術を賞賛するラファエル前派という芸術集団をつくり、自然を忠実に描写することで、虚飾のない表現を求めている。したがって、ロセッティのモデルの中には甲状腺腫を持っている人がいた可能性が高いのではないかと考えている。バセドウ病に美人が多いという説の裏付けではないが、「甲状腺腫=美」という点では興味深い。 ロセッティがモデルとした妻の名は、エリザベス(・シダル)という。 勿論、エリザベス・ティラーとは何の関係もなく、バセドウ病を示唆する資料もない。 |