補        足
それぞれのフラニストのところで、色々な会や集まりについて書いてきましたが、書ききれなかったものに関して、ここで補足させてもらいます。後の項に出て来るものやそれほどではないものは省きます。
劇団「ラ・ノンブリ」
この劇団は青年会議所(JC)が毎年開く「JC設立記念の夕べ」を盛り上げる"余興"として、仲世古さんが理事長だった昭和54年に出来た。中心的に動いたのは茶畑さんで、出演者、スタッフの根回し、脚本の選定、舞台の構成などすべてやっていた。第一回公演は「狸の殿様」だった。ぼくも茶畑さんに声を掛けられ、面白そうだからとのっていた。茶畑さんと初めての「仕事」だった。もっともぼくの役は村人Aで、セリフも2つしかなかった。
JC内であんなことが大真面目に出来たのだからいい時代だったのだろう。みんな文句も言わずに、よくもまあ、バカバカしいことをやったものだ。 ジュンさんなんて主役抜擢でものすごい量のセリフがあり、仕事そっちのけで覚えたはずだ。吉本さんは笑わせた。セリフは全然覚えないし、練習も真剣にやらない。見かねた先輩が忠告したら、ぼくは本番しか演技はしないとうそぶいていた。ジュンさん、吉本さんとも初めての「仕事」だった。茶畑さんやジュンさん、吉本さんの人柄とかものの考え方を肌で感じれたのもこの劇団のおかげだった。
昭和57年、「北の国から」がテレビ大賞など数々の賞を受賞した。その受賞祝賀パーティにラ・ノンブリが記念公演をやることになった。今度は市長や商工会議所会頭をはじめ錚々たる富良野の人達、そしてわざわざ東京から駆けつけた田中那衛さん、地井武男さん、純くん、蛍ちゃんなどの前での演技である。みんな尻込みした。なんてことはなく、燃えに燃えた。
タイトルは「北の国から」(時代劇錯綜編)小さな家族の大きな愛の物語 北の国から名場面を描く短編野心の盗作。茶畑さんが脚本・盗作、ジュンさんが大友柳太朗さんが演じた「杵次(きねじ)」、吉本さんが大滝秀治さんの「清吉(せいきち)」、ぼくが岩城滉一さんの「草太(そうた)」の役だった。座長は建設業及川組の及川さんで、役はもちろん田中那衛さんが演じた「黒板五郎」。及川座長の口上で幕が開いた。これも茶畑さんが書いたものだ。
カチカチ 東西東西 カチカチカチ
座がお高こうはございまするが、一座になり変わり、ご口上申し上げ、おん願い立てまつりまする─本日は我が富良野の住人、倉本聰先生の数々の誉れ高き受賞祝賀会、一座うちそろいまして、心よりお祝い申し上げたてまつりまする─又、ごこう来の皆々様には、にぎにぎしくも、各も多数のご来場をたまわり、心より厚く厚くおん礼申し上げまする─さて!倉本先生の受賞記念公演!当地での公演は数をかさねること本日で3年前と合せ2回目の公演となり、一座増々の円熟し、これより皆様には息つくヒマなく!ため息もれる大熱演を演じまするが……一座全員、専務という忙しい身!演技に撤すればセリフを忘れ、セリフを気にすれば演技を忘れの名場面!失態あろうけれども─この場は、イヨォー(ツチ)、倉本先生にめんじまして…おゆるしを…スミからスミまでおん願い立てまつりまする─カチカチカチカチ
口上に続き、草太役のぼくの「よく来たよく来た。お前が純か」のセリフで始まった1幕7場の舞台は大受けだったのは言うまでもない。ジュンさんの泣かせる場面では「おひねり」が飛んできた。それにつられるように田中那衛さんが千円札を挟んだ割箸をコークのビンに立てて舞台に持ってきてくれた。喝采、喝采、喝采だった。
終った後の打ち上げの席上で先生が那衛さんに、今日の舞台が最高だったのは上手いとか下手の問題ではなく、一生懸命やるというみんなの心が伝わってきたからだ、演技の原点はここにある。と言ったら、邦衛さんが神妙に頷いていた。それがすごく印象的だった。
ラ・ノンブリのノンブリとはフランス語で「へそ」という意味である。富良野は北海道の経緯度からみて中心に位置していることから、北海道のへそと言われている。そんなところから命名したと思う。毎年、7月28日29日は「へそ祭り」が催され、お腹にユーモラスな絵を描いた人達がへそ踊りを踊る。へそと富良野は切っても切れない関係なのだ。ラ・ノンブリのことも「北の人名録」に載っているのでご覧下さい。
倉本サンタのクリスマス
ぼくは最初から先生サンタのクリスマスに関わっていた。
この始まりも昭和54年だった。おそらく劇団ラ・ノンブリ公演の余韻から出てきたと思う。劇団は先生はじめ奥さん、北時計の今野さんに多大の迷惑をかけながら、盛り上がっていったという経緯があった。茶畑さんや仲世古さんはそれ以前から先生とは親しくしていたけれど、ぼくも含め他の人達は劇団を契機に先生と懇意になっていった。
このクリスマスの参加メンバーも劇団関係者とその家族が主だった。初めてのクリスマスは先生のご自宅の庭で行われた。先生は「文化村」という富良野市の街づくりのアイデアから生まれた森に住んでいる。
富良野スキー場のすぐ近くに位置し 他に推理小説作家の佐野洋先生などの別荘もある。
当日、茶畑さんは庭にそびえ立つエゾ松に赤、黄、青など色とりどりの電球を飾り、雰囲気を演出していた。誰も気づかないうちにこういうことをやれるのが、茶畑さんの茶畑さんたる所以なのだが、手間と暇とお金を惜しまず、決めるところは決めるやり方は本当に勉強になった。その巨大なクリスマスツリーはぼくが今まで見た中でもっとも綺麗なものだったし、感動的なものだった。丸太を組んで燃やしそれで暖をとり、豚汁、牛乳、おにぎりの料理に、なんと米屋の菅原さんは餅をついてくれた。先生から子供達にプレゼントが贈られ、母親と一緒に帰った後はもちろん大宴会になったことは言うまでもない。
先生自らサンタクロースの格好をしてプレゼントを配ったこともあった。その頃茶畑さんが乗っていた白いジープを派手にライティングして各家庭を廻ったのだ。先生のサンタクロースのスタイルは笑えた。それから、先生脚本の「君は海を見たか」にひっかけた「君はサンタを見たか」も面白かった。たまたま先生がその時期に仕事で富良野にいられなかった年があった。どうせいないのなら、いなくても良いことを考えようと出たもので 車に茶畑さん、日里さん、それにぼくが乗り、見つからないように、そっとプレゼントと君はサンタを見たかと書いた紙を置いてくる。置いたら素早く逃げて、次に向かう。玄関に出て待ってる人がいたのには困った。ぼくたちは顔を隠して車の窓からプレゼントを投げつけた。これは評判悪かった。毎年、趣向を凝らしてやっていた。ここに1985年に茶畑さんが出した案内状がある。
「今年こそ」が「来年こそ」と思う師走の今日このごろ皆様におかれましてはいかがお過ごしのことかと御拝察いたします。早いもので1985年も余すところ……余すどころか、足りないのが本音でないでしょうか、忙しいばかりでサッパリ身入りが無かった一年だと誰かが、ポツリともらしておりました。
さて、恒例となりました「倉本先生とサンタクロース」のご案内ですが今年は先生が富良野に鎮座されて7周年を御迎いになられますのでこれを記念し例年と趣をかえまして執り行います。

スローガン
呼び戻そう歯舞、色丹、倉本そう(富良野以外の仕事が多すぎる)

あ し/検討中、期待できず

テ ー マ/ゆく年忘れて、「くる年、くる年」

出席者/これまで先生とご関係の方々、ご夫婦、恋人OK

ポイント/ 「悲別」成功祝い・先生早めの誕生日・奥さん陰で御苦労さん

会 費/懸かった分を割り勘

アンダーライン
「ニングル」をテレビドラマにしよう・塩尻夫人ご懐妊おめでとう
小田島二世誕生・宮川氏?などなど祝いごとたくさん

忘れずに/安くてセンスの良いプレゼント一家に一点

タイトル/やり繰り済ます(クリスマス)て、大忘年会パーティ

催 し/'85年度一芸大賞、及びこれが夫婦だ大賞など

日 時/12月22日(日曜)夜7時

主 管/日本夜味なべ協会

会 場/五郎の丸太小屋

副主管/丸太小屋を守る会
濃痔組合阿呆人富良野濃狂

これも茶畑さんの発想で生まれたもので、濃狂は農協の当て字である。メンバーから集めたお金で知合いの農家の方に穀物を作ってもらい、収穫は自分達でする。
5月には現地で開村式を行い、五穀豊饒、夫婦円満、家内安全などを願い、ジンギスカンを食べながら楽しい一日を過ごす。6月から収穫が始まる。イチゴ、トマト、枝豆、トーキビなどなど。そして9月には収穫祭。漬物用のダイコン、ジャガイモなど。この組合の良いところは収穫を通じて家族全員が参加できることにある。日頃から家族に不義理をし 家庭を顧みないと非難されているお父さんたちのゴマスリが濃狂の最大の目的だった。事実、奥さん達にも子供達にも評判が良かった。もちろん農作業をすることによって、農家の人の尊さや、作物の大切さを子供達に分かってもらえることもある。組合長はジュンさんだけれど、茶畑さんが書いた農事通信を紹介します。こういう事務的なことも、すべて茶畑さんがやっていた。

農事通信6号
お父さん!額に汗してますか。
とくにお子さんと一緒に……。今日のお父さんて大好き!(と、かあさんに言われる)。今がとり頃です。イモ、ニンジン、ダイコン、エダマメ、トーキビ。来月はつけもの用ダイコンがとれます。好きな時に好きなだけおとり下さい。組合員の皆さん、組合員になりたい皆さん……言いにくいのですが組合ヒ下さい。1年分10,000円。来月にすごーいもよおしを企画します。
濃狂組合長佐々木淳

農事通信7号
今夜の食卓にかあさんの漬ものがのるゾ……。
今度の休日が…秋の夜長にメルヘンを創る!
11月26日(日ヨウ)朝10時〜
もちもの……ベントウ、オヤツ、オワン、ハシ、クワ、スコップ
とるもの……漬もの大根、イモ、ニンジン、かたくなったトウキビ、エダマメ
と く に……現地での収穫はこれが最後で、全部とります。のこりは土中(ムロ)に保存します。
又、たのしいもよおしはまだまだつづきます。
組合長佐々木ジュン