若いじっこの会
「じっこ」とはお年寄りの男性のことで、北海道の方言だと思う。若いじっことは、若くもないし、かといって年寄りでもない、つまり、ぼくたちの年代のことを言うことにしている。この会は歌を詠む会で、毎年6月に藤だなの下に集い、「藤見の宴」が若いじっこの会のメンバーによって開催される。日里さんとぼくが仕切る。詠み人はもちろんジュンさん。記念すべき最初の宴の歌と句を紹介しましょう。
お題、「藤の花」。藤の花・見るたび思う・フジテレビ(健雅)、立ちしょんべん・太き藤つた・みくらべて・我腹立ちて・花を見ゆ(茶一秋)、咲き開く・藤を見つめて・我いつ開く(串焼)、藤見酒・だんだん遠のく・二日酔い(吉の光)、時流れ・人の心は・変われども・今なお咲く・藤の花(米太郎)、藤の花・咲いてるうちが・花(ター坊)、麦酒つぐ・君こそ白き・細うでに・ほほ染めし・藤の花かな(ジ)。
ピーコさんが富良野に来た時に、若いじっこの会で「北時計」において特別に歌会を開いたことがあった。その時の作品は大変に優秀なものが多く、大笑いしたのでここに紹介します。日里さんがこの時の模様をFNWL誌に書いているので、それを転載します。

"なべだ、なべだ""いくらだ、いくらだ"オゴッツォー(こんなの盆か正月でなきゃ喰えないョ………超期待、超豪華なのだ)。今回の参加者は若いじっこ十六人衆とプラスあのピーコさん。題して「シャケなべうまいぞ、北時計秋の宴俳句編PART4。
グツ、グツ、グツ。よだれタラ、タラ。なべの中には、赤い顔した「カニさん」、きのうまでカンバックサーモンの声援をうけ力泳していた「シャケさん」、なんと貝のホームラン王「ホタテさん」、そして砂田豆兄の特製手作りトーフ、白滝、はるばる津軽の海を越えてやってきた、本日の特別ゲスト「マツタケさん」(高そう、これはピーコさんのおみやげですありがとう)。とにかく、うまそう、いやうまい、うまいゾ。秋の香り、男の香り、木の香り、なべとおこげの香り………あき。
夏の出来事をあきらめきれず夜空を見つめ力なく呟く男。ひたすらなべと格闘している男。“いくら”は高価なものとただただ感動しひとつぶひとつぶ味わっている男。秋はいらないとはしゃいでいる男。男大好きとさけぶ男。思い思いの秋、そして、おとこ。
美しい人々再び歌を詠む。大変長らくお待たせいたしました。ご紹介しましょう力作のかずかず。
寝そびれて・深き寝息の妻を見て・息をひそめて・一人かくかく(茶一秋)。う〜んと、うなる十六人衆プラスワン。一瞬静まる。するとひょうきんゲタ屋が「ピーコさん、一句やってょ、つくってょ、早く」。ピーコさんペンとにらめっこ、「私、こんなのやったことないのョ、なれてないのョ、ダメョ」とはにかむ。出来た、やっと出来た。期待。秋はいや・ひとり夜長の・かまひとり。「いいしょ、いいしょ」と、若いじっこ、やさしくほほえむ。やっとみんな肩の力がぬけ次々と、句を口走るのである。
秋の夜の・あきた妻との・あきたわざ(吉の光)、菊に酔い・もみじにようか・北時計(床り)、秋桜の・かれんな姿に・ジェラシー(宇戸佐)、深々と・つもる落葉を・ふみ分けて・さがし求める・夏の残りを(あっち)、秋がきて・コクワくいすぎ・ふんずまり(泰ベー)、僕は何ぜ・はしゃいでおだって・何なのヨ(マークソ)、だんろもえ・俳句つくるが・みなださく・秋の夜ながは・しらけゆくゆく(達哉凡人)、花枯れて・今宵つどう・北時計・東より来た人・芸は花なり(一笑毒身) 秋深しとなりの人はなにする人ぞをつくった人のとなりの人がつくった句、秋深し・となりの人は・デバカメだ(吉の光)、きらきらと・いくらすくいて・ふくむ酒・きわに石狩・にえたぎり(ジ氏)。
再びジ氏唸り出し、この歌会も佳境に入り、今回の最優秀作品が決定したのである。
まつたけを・選ぶその時・眼に浮かぶ・私を過ぎた・男のかずかず(おこげ)。おめでとう、拍手拍手、パチパチパチ。自分の秋を満足した若いじっこ達は、体のほてりもさめやらぬまま家路にいそぐ。北時計の白いランプは男の背にロマンと感動の秋の一夜を“ありがとう”と静かに語りかけたのである。

この会もそうだけど、バカバカしい、何のためになるのと思うかもしれませんが、実際この場面で自分はどんな句や短歌が浮かんでくるのかを考えてみて下さい。簡単なようだが、結構難しい。気が付いたと思うけれど、こんな句や短歌にもその人の人柄とかものの見方とか、大げさに言えば生き方まで出てきてしまう。歌の作り方なんて本を読んで、真剣に勉強したって、この会では意味がない。大切なことは発想です。発想は習って取得するものではなくて、その人間がどう生きているかが、問題なのです。なんて、言うほどのもんでもないか。