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へその信仰と迷信


    日本には数多くの格言やことわざが残っているが、小さく突出したもののたとえに
  用いられたり、性格や気力の根源があるが宿るとする思想から生まれたものである。
    また、諸外国にもあるが、自分たちの住む地域のどこかに中心点を見出して、これ
  を体の中心であるヘソに対比することは日本でも兵庫県加古川市生石神社をはじめ、
  全国各地に臍石があり、特に神社・仏閣の中央の礎石に名づけられている。
    大阪府大東市には「臍の王神社本宮」と称する臍の緒を祀り、安産・家内安全・夫
  婦和合・子孫繁栄を祈願する神社もあり、同神社の夏祭りには健康増進のための体操
  として「臍の王宮へそおどり」という行進おどりが催されている。その踊りは太鼓や
  鐘に合わせて杓子を両手に持って、上下左右に足腰をふって心のままに歩き踊るもの
  で、老若男女・子供も直ぐ覚えることのできるとのことである。
    また、佐賀県佐賀市の佐賀八幡宮神社でも、母と子の絆として臍の緒を奉納するこ
  とが行われている。


古くからの俗信に「雷にへそを取られる」あるいは「雷がへそを取る」がある。 腹を出した子供を戒めることに今でも良く使われている。子供のころたいていの人は 母親から驚かされたことであろう。 この言葉の由来には、健康説・防災説・妖怪説の3つの説がある。まず、健康説を 紹介しよう。雷の起きる日は夏に多く、それも湿度が高くてムシムシするような暑い 日である。ところが、雷雨になると、急に涼しくなり、裸のままでいると腹を冷やし て、風邪をひいたり、腹をこわしやすくなり、体に良くない。そこで母親は「雷にへ そを取られる」と言って、遠くで雷が鳴り出すと、子供に腹がけをさせたという説で ある。すなわち、暑くて腹を出している子供の健康を気遣って、戒める言葉として定 着したとする説である。


次は防災説である。落雷や地震があった時は、しゃがみ込んだ姿勢が防災上安全で あることから、子供に「雷にへそを取られる」と言って、へそを隠しかがんだ姿勢を 取らせたとする説である。


最後は、妖怪説である。日本には多種多様の霊魂信仰があるが、これもその残痕で あるとする説である。河童という、空想上の動物がいるが、河童は肛門から生肝を抜 くとか、尻子玉(肛門の口にあると考えられた玉)を取るという俗信がある。雷が妖 怪化した段階で、河童と同様なことをして、体内の霊魂を抜き取るもののように考え られたのではないか。


また現在もよく信じられている俗信に「臍のあか(ゴマ)を取ると腹が痛む」「臍 のあかを掘ると力が抜ける」がある。これはヘソの部分は腹壁が薄いので、むやみに いじると病気になりやすいとする考えから生まれたものであろう。「臍に梅干しを貼 りつけて汽車に乗ると酔わない」という迷信もあり、性格の良くないのは治るもので はないとの意味で「腹の黒い人は大水の出た時に洗え」と言う地方もある。