三年前の夏、東京の知人から突然、携帯電話がかかってきた。
「いやー、知り合いと話していたら、富良野の話が出てきてね」。知人は、ちょっと興奮気味に話し始めた。
知り合いというのは山形県でさくらんぼの苗などを育てている会社の専務で、「北の国から」の大ファンだという彼が近々、富良野に行くからよろしくということだった。「若いけど、いいヤツだから面倒見てよ」と言って電話は切れた。
それから程なくして、会社の慰安旅行で彼は富良野に来た。彼の会社はさくらんぼの高級品種の「佐藤錦」を命名・普及したことで知られている。彼は私に「富良野の広大な大地に、ぜひ、さくらんぼを植えてみたい」と熱っぽく語った。私も「富良野にさくらんぼ」というのはイメージとしていいなと直感的に感じたが、その時は、簡単に実現できるとは思わなかった。
ところが、なんと! この五月末に、富良野の麓郷の丘に彼が本当にさくらんぼの苗木を植えたのだ。彼の熱意が功を奏して会社が麓郷に十ヘクタールほどの土地を買い、さくらんぼ三百本とブルーベリー、桃などの苗木を植えた。風も強いし、山形生まれの苗木が氷点下二○度を超す厳しい富良野の冬に耐えられるのかどうか、心配もある。それでも、夢の実現に向かって一歩を踏み出した彼はえらいなと思う。
さくらんぼを植えた場所からは、前富良野岳や芦別岳が望め、景色もすばらしい。山形のさくらんぼが富良野でも根を下ろせるように、私も非力ながら彼の取り組みを応援していきたい。