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ちょっとだけ病気の話The short essay of illness


 2024年のNHK大河ドラマは、紫式部の生涯を描く「光る君へ」。タイトルは、もちろん源氏物語の主人公「光源氏」とそのモデルとされた藤原道長に由来する。そこで思い出したのが下記のちょっとだけ病気の話。ほかいくつかのエッセイとともに、わがクリニックの開業日、1994年9月17日にホームページにアップしたもの。ドラマのイメージを壊しかねないけど、糖尿病のお勉強として再度アップしますのでお付き合いを。

【光源氏は糖尿病】

 糖尿病は、膵臓でつくられるインスリンというホルモンの作用不足でおこる病気である。
遺伝はしないが、糖尿病になりやすい体質という遺伝傾向をもつ。 もちろん無関係に、感染症などを契機に突然発症するタイプもあるが、大部分は遺伝的素因のある人に、過食・大酒・肥満・運動不足・妊娠・ストレスなどが加わって発病する。インスリンの不足は、食物として摂取された糖分(グルコース)の細胞への取り込みを悪くする。この結果、本来は細胞の中に入り、エネルギーとして利用されるべき糖分が、血液中に貯まってしまう。この血糖が過剰な状態が、長く続くといろいろな不都合が生じてくる。
三大合併症と言われる神経障害・腎症・網膜症をはじめ、血管障害として脳梗塞・心筋梗塞など重大な病気の併発も起こしやすい。症状は、血液中に余った糖分を排除する目的で多尿となり、細胞の脱水で口渇、エネルギー不足により全身のだるさなどが生ずる。しかし初期状態では、あまり特有な症状を来すことがない。合併症がでた後では、障害の悪化・進行を防ぐだけになってしまい、症状のあまりない初期段階での治療が大事となる。

 1952年オランダのライデンに始まり、3年に1度行われている国際糖尿病会議(第15回)が、日本で初めて開催されたのは、あの阪神大震災の前の年、1994年の神戸でした。この時、この会議開催にあわせて、「糖尿病」をテーマとした記念特殊切手が発行され話題となった。その切手のデザインが、平安貴族の藤原道長の肖像とインスリンの結晶を組み合わせたものであった(写真:*インスリンの結晶のかたちは抽出方法で数種類あるも、最も有名なのが図柄にも示されている通り六量体で作られる菱面体結晶)。
*1921年カナダのトロント大学の生理学講師バンティングと医学生ベストが、実験用の犬から血糖を下げる物質の抽出に成功し、これがインスリンで、100年ほど前のこと。

 今から約千年前の9世紀平安朝時代、平安京の華やかさの裏側では、王朝貴族たちの激しい権力闘争の日々が繰り返されていたようで、なかでも熾烈な争いを演じていたのが、「源氏物語」の主人公光源氏のモデルといわれる藤原道長と藤原伊周(これちか)であった。道長は、当時の関白道隆の末弟で、道隆の子息である伊周よりは8歳年上の叔父ということになる。当初父親の後ろ盾もあり、伊周が道長を追い抜き出世階段を昇っていたようであるが、道隆の死後、その強引な引き立てへの反発もあってか、立場が逆転し、道長の全盛時代となっていったのである。

 別に歴史のことを延々と書くつもりはないが、道長の兄である道隆は、「大鏡」や「枕草子」によると大酒飲みで、死因も酒の中毒だっという記載もあり、また「栄華物語」では「水を飲みきこしめし、いみじう細らせ給い」43歳で死亡となっている。このようなことで、道隆が糖尿病(当時の飲水病)に罹っていた根拠とされているのである。<このようなことで、道隆が糖尿病(当時の飲水病)に罹っていた根拠とされているのである。
また伊周も「日頃水がち」だったとのことから、糖尿病の可能性も考えられ、藤原一族には糖尿病素因があったのではないかと推定される根拠となっている。道長にいたっては、自身が著した30歳から56歳までの「御堂関白日記」や、当時の右大臣藤原実資(さねすけ)の日記「小右記」(実資のことを指す野宮大臣の記ということ)によると、多飲多尿・口渇・視力障害(糖尿病性網膜症?)など糖尿病特有の症状記載が随所にあり、日本の歴史上の人物では最古の確実な糖尿病患者として知られている所以である。もちろんこの理由で、先の切手のモデルとなった訳ではあるが・・・。

 平安時代、主に貴族社会に花開いた「王朝文化」、王朝貴族はかなり贅沢な暮らしで、豪勢な食事をとっていたようである。朝夕1日2回の食事が原則で、その他に間食と夜食が加わり、かつ3日に1回は宴会を開いていたようで、10数種類の豪華宴会料理と酒を含めると、当時の貴族の摂取カロリーは相当なものであったと推定される。この過飲過食と藤原一族の遺伝的素因、権力闘争によるストレスに加え、重く動きずらい貴族の衣装?による運動不足、つまり今日言われている糖尿病発症因子が、道長そして平安朝貴族には備わっていたのである。

 題名に偽りあり?...船橋聖一訳「源氏物語」上・下巻(祥伝社)を読んでみたが、もちろんどこにも光源氏が、糖尿病であったと疑わせる記載は見つからない・・・うーん。  (2024年1月一部改変)


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