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ちょっとだけ病気の話The short essay of illness


 本年(2021年)3月富良野にとてもゆかりのある田中邦衛さんが亡くなりました。もう20年以上も前に書いた一文ですが、田中さんを偲んで一部改変しリニューアルスタートの最初のお話とします。(2021年5月)

【たなかくにえさん】

 勤務医だった頃の話。
昼過ぎ医局で寝転がっているとき、「患者さんがみえています。たなかくにえさんです。診察お願いします」の電話。 外来の出番でないのに・・・と思いながら診察室に行ってみると、あの田中邦衛さんである。職業柄か?何度も接している患者さんは、名前を聞いた瞬間「漢字の名前」とカルテが頭に思い浮かぶ。しかし、通常は平仮名のまましばらくお付き合いを願う。「たなかくにえさん」の場合は、診察室に入った瞬間から「田中邦衛さん」となったが、間もなく目の前の患者さんはあの「黒板五郎」に変わってしまった。そう・・・あの「北の国から」の主人公である。作業の合間にちょいと寄ったような格好で、もちろんベルトには手拭いがぶら下がっている。
   
   「どうなさいました?」
   「鼻水が出て、喉が痛いんです」・・・と独特の大きな声
   「寒かったですものね!」
   「そうなんですよ」

 いわゆる「風邪」である。それからも2度ほど来院されたが、いつも冬のロケ中である。後でテレビ放映を見ると、雪の中で木の下敷きになっているとか、雪の中に埋もれながら作業としているとか、風邪をひくのも無理ないな〜と、何とも同情してしまうようなシーンの連続である。
この例のように、寒いところに長くいたりすると、どうして風邪をひくのだうか?昨日までどこも何ともなかったのに、突然寒気とともにくしゃみ・鼻水、のども痛いし、頭も重い、そのうち関節痛とともに熱が出て、咳もつく。こんな症状の患者さんをみると、医者は「かぜ症候群」と診断する。
 風邪は、ほとんどの場合ウィルスが感染して起こる呼吸器系(上気道)の炎症性疾患の総称である。そして風邪の症状は、このウィルスなどの生体にとっては異物を排除しようとする防御反応の結果生じてくる。鼻水や咳、発熱などは、外敵の侵入に対する正常の反応なのである。よく老人が風邪から肺炎を起こしやすいと言われるのは、この防御反応が弱く症状が出現しにくいため、二次的に細菌などの感染を起こすことがあるからである。

 この防御反応を起こす前に、人間には第一段階の感染を防ぐ方法が備わっている。よく空気清浄器に喩えられるが、口から順に説明を加えてみると・・・
扁桃腺が外敵にとっては最初の関門である。扁桃腺はリンパ球が集まっている場所で、このリンパ球は外敵が侵入すると防御反応を惹起する細胞である。喉が赤く腫れるのは、リンパ球が戦っている証拠である。鼻の役割と言えば、吸い込んだ空気のちりを除いて清浄化し、鼻腔内で加温・過湿することである。実際、吸い込んだ空気が鼻腔内を通る間に60〜70%の異物が除かれ、温度25〜37℃、湿度35〜80%になる。これは、インフルエンザウィルスのように、高温多湿の環境では生存しにくい微生物の排除に効果があるのである。次に働くのが気管である。喉から肺へ空気を通すパイプであるが、管の内側には線毛と呼ばれる細い毛を持つ線毛細胞が規則正しく並んでいる。この線毛は口の方に向かって絶えず波打っており、侵入した異物を取り押さえ、粘液とともに外へ排出するのである。
いくつかの関門をすり抜けて肺に達した場合、ここで最終処理が行われるのである。肺は肺胞と呼ばれる小さな房の集まりでできている。この肺胞には線毛が存在せず、その代わり侵入してきた微生物を食べてしまう肺胞マクロファージがいるのである。肺で炎症が起こると、肺炎となってしまい、もはや風邪とは言えず、そのためこのように、防衛機構が備わっているのである。

 話を元に戻そう。寒いとどうして風邪をひきやすいか。これは、冷たい空気を吸い込むと高温多湿の環境になり難く、また血管が収縮して線毛の動きが鈍くなることにより、吸い込んだウィルスが排出されず感染を起こしてしまうからである。今まで述べた防御機構を考えて見るとお分かりかと思うが・・・。風邪の季節にはうがいと手洗いをこまめにすることをお勧めする。

 映画のスクリーンに向かって観客が拍手する場に一度遭遇したことがある。高校の学祭の時の上映だった安部公房原作「他人の顔」である。確か入院患者役で田中邦衛氏が登場したときである。もちろん私も拍手をした記憶がある。医者の守秘義務にひっかかるのだろうか?と思いながら書いてきたが、別に秘密事項もないことだろうしお許し願いたい・・・昔大きな拍手を送った一ファンより、たなかさんへ、ご冥福をお祈りします。


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